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第8回保健システム研究グローバルシンポジウム(HSR2024)でJICAサテライトセッションを開催(その2)

2024.12.27

2024年11月18~22日に、グローバルヘルス分野で権威ある国際シンポジウムThe 8th Global Symposium on Health Systems Research 2024(HSR2024)が日本で初めて長崎県で開催されました。

メインセッションに先立ち、11月18、19日にはサテライトセッションが開催され、JICAは8つのサテライトセッションを企画しました。11月19日に開催されたセッションの内容は以下の通りです。セッション6、7の動画もご覧になれます。

11月18日に開催されたセッションの内容は以下からご覧ください。
第8回保健システム研究グローバルシンポジウム(HSR2024)でJICAサテライトセッションを開催(その1)

【セッション6】
保健財政改革におけるマルチステークホルダーによる政策対話の促進: 公正で持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成に向けた経験の共有

JICAがこれまで実施してきたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage: UHC)達成に向けた開発資金の貸し付け事業の経験を踏まえて、各国から政策関係者や研究者を迎え、UHCへの保健財政の取り組みについて議論が行われました。セネガル医療保障庁技術顧問からはJICA事業を通した貧困層・脆弱層向けの医療保障予算の増加について、ケニア保健省からは現在進行中の保健セクター改革について、エジプト医療保障庁からは国民皆保険政策について発表がありました。

一方で、セネガル財務省からは予算配分の増額には各省庁からの成果提示が効果的であるなど、財務省の視点が提供されました。JICAと一橋大学が共同で実施してきたセネガルUHC支援インパクト評価の結果を報告した一橋大学の中村良太教授からは、家計の医療負担の減少が見られる中でも医療保障の予算不足という課題があること、またセネガルの保健財政開発計画の策定プロセスに関する分析結果を発表したJICAの戸川翔太郎職員からは、計画実施に向けた連携体制の強化や政治経済的なコンテクストを踏まえた開発パートナーによる支援の重要性が指摘されました。

セッション6の動画は以下からご覧になれます。

また、戸川職員は、「セネガルUHC政策の策定過程に関する政治経済分析:制度改革の成功に向けた提言」と題したポスター発表も行いました。JICA緒方研究所の支援を受け、セネガルの保健財政改革、特に「新国民皆保険戦略」の策定において国内外の関係者がどのように連携しているか分析した成果を報告。サテライトセッションのために日本を訪れていたセネガル政府関係者も交えて来訪者への説明や議論を行い、多くの関心が寄せられました。

【セッション7】
貧困・紛争地域でのがんケア格差を是正する:インクルーシブで統合的な保健システムの実現に向けて

低中所得国では、感染性疾患と非感染性疾患が共存する「二重負荷」の状況が生じており、今後10年でがんによる死者数の75%が低中所得国に集中すると予想されています。しかし、貧困国ががんに対処するための保健システム強化の取り組みは十分ではありません。

本セッションでは、 JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の瀧澤郁雄 主席研究員がモデレーターを務めたほか、同研究所の井田暁子 研究員が実施中の研究プロジェクト「低中所得国における非感染性疾患の社会経済インパクトと課題分析に関する研究 」に基づき、低中所得国におけるがんケアとエビデンスの圧倒的不足を指摘しました。

紛争に見舞われる貧困国ブルキナファソの医師や研究者からは、現場のリソース不足とともに、協働やローカル・リソースの活用による取り組みへの期待が示され、民間財団City Cancer Challengeからは都市を軸としたがん対策モデルの可能性、世界を代表する臨床研究機関St. Jude子ども研究病院からは保健システム強化を通じた小児がん対策への取り組みについての発表が行われました。

さらに、WHOを中心とした国際的政策枠組みや、政府・医療者・大学・民間セクター・草の根を巻き込んだ取り組みの成功事例が紹介され、早期のがん対策への投資が大きなリターンを生むことや、がん対策の強化を通じてインクルーシブで統合的かつ強靭な保健システムの構築に貢献できることを指摘しました。

また、井田研究員は、「貧困・紛争地域における、保健システム強化を通じた非感染性疾患対策の向上:ブルキナファソでの小児がんケアの事例」と題し、ヤルガド・ウエドラオゴ大学病院のフラ・クエタ教授、シャルル・ド・ゴール小児大学病院のソニア・カボレ教授やイッソ・ウエドラオゴ教授、ブルキナファソ保健・公衆衛生省のオリビア・ウエドラオゴ氏と共著でポスターの発表も行いました。

アフリカで増え続ける非感染性疾患対策を保健システム強化の視点から捉えるための一事例として、西アフリカの貧困・紛争国ブルキナファソにおける小児がんケアへのアクセス状況と、社会的な阻害要因についての分析を行いました。小児がんは早期の発見・治療で8割以上が回復しますが、進行が早く、手当ての遅れが命取りになります。小児がん患者の保護者インタビューと病院の統計データからは、子どもの症状に気づいてから診断に至るまでに約18週間(中央値)と長い時間がかかっており、特に症状の発見から保健医療施設での診察に至るまでの時間が、結核の場合に比べて約2倍と長いことが分かりました。井田研究員は、小児がんが、一般にも末端の保健施設で働く医療者にも知られていないこと、近代医療よりも伝統的医療が優先されていること、貧困、病院までの距離、検査に時間がかかること、などが背景にあると指摘しています。アフリカからの実務者や研究者に加え、幅広い関係者から質問や感想が寄せられていました。

ポスター発表を行ったJICA緒方研究所の井田暁子研究員(左)

ポスター発表を行ったJICA緒方研究所の井田暁子研究員(左)

【セッション8】
東部アフリカにおける研究能力強化の新たな展望

サハラ以南のアフリカの研究能力強化はグローバルな感染症課題に対して極めて重要な役割を果たしますが、これらの国々の研究機関は、限定的な国家予算配賦、研究者の国外流出、外部への資金依存やそれに伴う研究のオーナーシップの欠如など、数々な課題を抱えています。リサーチに基づくエビデンスによる国・域内の保健医療の政策提言をミッションとするケニア中央医学研究所(Kenya Medical Research Institute: KEMRI)は、JICAの技術協力により、研究者自身の能力強化に加え、外部競争的資金を含む研究予算の獲得増加、リソースを研究成果につなげるための効果的・戦略的なマネジメントの重要性に注目し、戦略的な研究管理・運営を所掌する部局を新規に設立する方針を立てました。

本セッションでは、本方針の根拠・取り組み状況・課題・対応方針が述べられるとともに、進捗を測るKPI設定の重要性や、他機関との長期的な連携の可能性が議論されました。同方針の導入および人材の強化は、競争的研究資金の獲得前後のプロセスの効率と効果の向上につながり、ひいては研究者と組織の研究能力強化、そして人々の健康増進に向けた研究成果の創出につながります。

各セッションの登壇者の情報は、以下のイベント告知ページからご覧ください。
第8回保健システム研究グローバルシンポジウムJICAサテライトセッション(2日目)

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