jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

自然環境保全

自然環境保全

#13 気候変動に具体的な対策を
SDGs
#14 海の豊かさを守ろう
SDGs
#15 陸の豊かさも守ろう
SDGs

次世代へ豊かな自然の恵みを引き継ぐ

グローバル・アジェンダの目的

自然と人間の調和を図り自然環境の滅少・劣化を防ぐことで多くの恵みを享受し続けられる社会を目指します。

背景と課題

(1)森林の減少・劣化

世界の陸域の3割、40億ヘクタールを占める森林は、生物多様性、水源涵養、炭素固定等様々な重要な機能を持っていますが、環境に配慮しない農業活動等の人為活動を主な要因とする土地利用の変化により、減少を続けています。近年は、一部地域の大規模植林等により、世界全体では減少速度は緩やかになってきていますが、アフリカや南米の熱帯林では依然著しい減少傾向が続いています。
これにより、世界の二酸化炭素排出の11%が森林の劣化・減少から排出され、水源涵養機能や国土保全機能の低下による災害リスクの増加、生物多様性の損失、自然資源の依存度の高い貧困地域の貧困増大などが生じています。

(2)湿地の自然環境の減少・劣化

生物多様性保全上、極めて重要な生態系である湿地の環境は、主に土地利用の変化により大きく変化し、1700年に存在した湿地のうち、2000年までに87%が失われ、貴重な生物多様性が失われています。また、湿地に存在する泥炭は多くの炭素を貯留していると言われていますが、農業活動による土壌の乾燥化や火災の発生等により大量の温室効果ガスの放出が生じており、保全対策が急務となっています。

(3)沿岸域の自然環境の減少・劣化

海域、特に沿岸域は生産性が高く生物の多様性も高い重要な生態系ですが、例えばマングローブ林はエビ養殖場などへの転換により、この30年間で全体の約7%に相当する約100万ヘクタールが減少しています。また、サンゴ礁や海草藻場も、陸域からの土砂の流入などによる劣化も見られています。これらにより、多くの生物の棲処が奪われるとともに、沿岸域住民への生計手段損失や、高波・高潮、津波などの自然災害の軽減などの機能が損なわれています。

(4)日本・JICAが取り組む意義

自然環境に依存し、その変化の影響に脆弱な貧困地域が多く存在する開発途上国にとっては、自然環境の劣化は食料や水等の資源の枯渇・汚染、生産基盤の損失、自然災害の発生等により、人命や生活が脅かされ、人間の安全保障にかかわる問題です。同時に気候変動の一因となるなど国境を越えたグローバルな課題でもあり、日本も含め、世界中の国々の発展や人々の生活に大きく影響する問題となっています。
日本は、江戸中期頃には木材の過剰利用等から森林率が5割程度に落ち込み、自然災害が頻発していました。しかし、江戸後期以降の関連制度制定や技術進歩に伴い、現在では森林率を7割まで回復させてきました。また、日本は人口密度が高く国土が限られていますが約400の自然公園が指定され、優れた自然保護と利用の増進の実践が図られています。このように明治以降の経済発展と自然保護を両立させてきた経験とともに、近年では日本が持つ人工衛星技術等の最新技術も織り交ぜて、自然環境の保全に貢献することが可能です。

主要な取り組み(クラスター事業戦略)

世界の自然環境について、森林は1990年~2020年で約5%、湿地は1970年以降約35%、マングローブ林は1980年~2020年で約22%、さらにサンゴ礁は2009年~2018年で約14%が減少・劣化しており、泥炭[1]地も、未だ全容は不明ながらインドネシア、コンゴ民主共和国等熱帯の主要な保有国で減少・劣化の傾向にあります。他の様々な自然環境の減少・劣化と相まって、気候変動(世界のGHG排出量の約2割が森林減少・劣化由来と言われます)、生物絶滅(推計100万種が絶滅危機にあり「第6度目の大量絶滅期」と言われます)、貧困・開発課題(世界の総GDPの半分以上相当の経済的価値創出が自然環境依存と言われます)に対する負のインパクトは多大です。

これまでの日本での経験(例:政策・計画と現場での技術実証と国民運動により過去300年間で森林率を5割から7割まで回復、約400の自然公園を指定して自然環境の保全と利用を両立、等)やJICAでの経験(ガバナンス強化や住民参加を重視し持続性を図る特長)を踏まえ、「柱1:自然環境を守る~自然環境の保全・回復~」及び「柱2:自然環境の恩恵を生かす~Nature-basedSolutions[2]~」を設定し、相互に密接に関連した柱1・2を組み合わせ開発シナリオの中心に据えて、自然環境保全を担当する中央・地方の行政部局を中心としつつ住民の主体的な参画を得ながら、自然環境に係る問題の解決に向けた取組が関係者間の信頼関係のもと、継続的に行われている状態を作り出します。

また、この開発シナリオでは、JICAグローバル・アジェンダ「自然環境保全」で掲げる「政策・計画」、「地域の現状を踏まえた実証・モデル化」、「科学的情報基盤の整備」ならびに「リソースの確保・スケールアップ」の4つの共通アプローチを適用します。データに基づき適切な政策・計画の実施・評価がなされ、地域住民や関係者が自然環境の恩恵を享受・実感することで、信頼関係構築の上、継続的な施策へ繋がるという循環を促し、さらに国内外の賛同を得て、外部資金の動員等、財務的な持続性を高めていく取組が必要です。

開発シナリオの展開にあたっては、優先的な地域・国を選定します。自然環境の減少・劣化の進行度の具合、危機に瀕する生態系ホットスポットの存在、気候変動に対する脆弱性、自然災害リスク等の観点から、熱帯陸域(森林・湿地・泥炭地等)、熱帯沿岸域(湿地・マングローブ林・サンゴ礁等)、乾燥・半乾燥地の3つを優先的な対象として選定します。総じてJICAの経験が豊富な森林を対象とすることが多い(現行では全体の約8割)ですが、森林を通じて生物多様性や砂漠化防止にも寄与します。

本クラスターでは2022年を起点として、2030年の中間目標として「開発途上国・地域の①自然環境の減少・劣化の阻止、②NbS の一層の普及、③住民への裨益」、また、2050年の最終目標として「開発途上国・地域での自然環境と共生する社会の実現」を設定します。


[1] 地下水位が高く嫌気的な場所において分解が抑えられた植物遺骸が堆積することによって形成された有機質土壌であり、大量の炭素を固定しています。
[2] 「自然を活用した解決策」または略してNbS。国連環境総会(UNEA)の定義では、「社会、経済、環境課題に効果的かつ順応的に対処し、同時に人間の福利、生態系サービス、強靭性、生物多様性への恩恵をもたらす、自然または改変された陸上、淡水、沿岸、海洋生態系の保護、保全、回復、持続可能な利用、管理のための行動」。本クラスターでは、自然環境の持つ様々な機能のうち社会課題の解決に役立つ機能に注目し、主に気候変動対策(緩和策・適応策)及び防災・減災(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction: Eco-DRR)のことを指します。